「父は元々私を男の子みたいに育てたがってたから、母が亡くなった後は淑女よりも紳士のような教育を受けた。けど、二度目にコナンに会ったとき、やっぱり馬で走るあなたは素敵で、色々物知りで、やっぱりお嫁さんになりたいって言ったら……」

「……僕より早く走れるようになったらね」

 確かそんなことを言った気がする。

「思い出した?」

 小さく頷き、思わず目を伏せる。

 本気ではなかった。子どもに言う、その場限りの言葉でしかなかった。
 でも彼女は本気にしていたのだ。

 そのことが申し訳なく、同時に――――すごく嬉しい。

 腕の中にあっさり飛び込んできた可憐な女性は、幸せそうにコナンに微笑みかけてくる。

「じゃあ、約束を守ってくれるかな?」

 立ち上がりながらそう言う彼女に、今度はコナンが跪いてその手を取る。

「喜んで、お受けします」

 手の甲に口づけ、「エミリア」と名前を呼ぶ。

 凛々しき王女はその目に涙をため、幸せそうに「コナン」と微笑んだのだ。