この恋、解約前提ですので。


会場にはビジネス関係者が多く、怜央は知り合いに軽く挨拶しながらも、彩にはこまめに声をかける。

「あの人が今回の主催者だよ。ちょっと顔を出しに行こうか」

「うん……」

彩は頷きながらも、少し緊張した面持ちでグラスを揺らした。

その時、後方から明るい声が飛んできた。

「怜央さん、久しぶり!」

振り向くと、白いドレスを品よく着こなした女性が、笑顔で近づいてくる。
その自然な距離感とトーンに、彩は反射的に一歩引いた。

「久しぶりだな」

怜央は穏やかに微笑む。
女性が、怜央の腕に軽く手を添えながら言う。

「やっぱり怜央さん、こういう場でも変わらず素敵ね。相変わらずモテるでしょ?」

「どうだろうな」

苦笑しながらさらりと流す怜央に、彼女は笑いを含んだ声を続ける。

「冗談よ。どうせ周りの女性が放っておかないでしょ?」

そのやり取りを見て、彩は内心でため息をついた。
(……なんか、居心地悪っ)

無言でグラスを傾け、シャンパンを口に含む。
そして、自分のドレスを意識的に確認した。
(うん、新作のディオールにしておいてよかった)

少なくとも、“彼の隣に並ぶ”には見た目の条件は満たしている、はず。
でも、怜央が誰かと親しげに話す姿をみて、胸の奥が少しじわりと痛む。
(きっと、こういう場で自然に会話してる女性こそが“本命”になるんだろうな)

グラスの氷がカランと音を立てた。

***
パーティーが終わると、怜央は彩を自分の車へと案内した。
助手席に座った彩は、どこか浮かない表情のまま窓の外を見ている。
ハンドル越しに視線を送った怜央が、静かに問いかけた。

「……どうしたの? パーティー、楽しめなかった?」

駐車場に車を止めたまま、怜央は横目で彩の反応をうかがう。
彩はしばらく黙っていたが、ぽつりと口を開く。

「怜央さん、私……たしかに期間限定の彼女だけど。仕事のパーティーに“連れて行く相手”として扱われるのは嫌」

その言葉に、怜央は眉を上げた。

「だったら、やめない? 私は“恋愛”を楽しみたくてこのアプリやってるんだよ」

その率直すぎる言葉に、怜央は一瞬言葉を失ったが、すぐに真剣な表情で答えた。

「……そんなふうに思わせてしまって、ごめん。そんなつもりじゃなかったんだ」

その顔はいつもの余裕を含んだ笑みではなく、どこか誠実で、まっすぐだった。

(……えっ。なんか、どうしよ)

胸の奥が、少しだけざわつく。

「じゃあさ」

怜央が不意に言った。

「今から、“本当のデート”しない?」

「……え? 本当の、デートって?」

戸惑う彩をよそに、怜央がにっこりと笑う。

「そっ、行こっ」

そう言ってエンジンをかけると、車は静かに走り出した。


***

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