彼との出会いは、彩が大学2年生のときだった。
藤木 悠真(ふじき ゆうま)――同じゼミに所属していた先輩で、学内でも評判の優等生。
成績優秀、スポーツもできて、性格も穏やか。
教授からの信頼も厚く、男女問わず好かれるタイプだった。
彩は最初、そんな彼を「高嶺の花」としか思っていなかった。
どうせ彼は、自分と同じように完璧な誰かと恋をするんだろう、と。
しかしある日、ゼミの課題でペアを組んだことがきっかけで、二人は急接近することになる。
「彩って、結構ストイックだよな。いつも努力してるの、見てるよ」
そう言って真剣な眼差しを向けてきた悠真に、彩は驚いた。
「……え? そんなことないよ」
照れくさそうに笑いながらも、胸の奥がじんわりと温かくなる。
その視線に、彩の心は自然と惹かれていった。
やがて彼から告白され、二人は付き合い始めた。
悠真との時間は、まさに夢のようだった。
彼は彩を大切にしてくれた。
疲れているときは温かい飲み物をそっと差し出し、試験期間中は一緒に勉強して励ましてくれた。
「彩ってさ、たまにすごく無理するよな」
ある日、ぽつりとそう言われた。
「え?」
「なんでも一人で頑張ろうとするけど、俺にも頼っていいんだよ」
その言葉に、彩は何度も救われた。
恋に落ちるとは、こういうことなのだと初めて知った。
けれど、幸せは長くは続かなかった。
ある日の夕方、いつものようにカフェで待ち合わせをしていたとき。
悠真は、静かに口を開いた。
「……別れよう」
その言葉が落ちた瞬間、彩の時間が止まった。
「……え?」
あまりに唐突だった。
「俺たち、たぶん合わないと思う」
「ちょっと待って、それってどういう――」
何か大きな喧嘩をしたわけでもない。
彼の気持ちが冷めたような素振りも、見せたことがなかった。
必死で食い下がる彩。
「何がいけなかったの? 私、何かした?
悠真が嫌なところは直すからっ、お願いそんなこと言わないで。」
悠真は首を横に振るだけだった。
「そういう問題じゃない」
「じゃあ、何で?」
「……彩は、本気になりすぎるんだよ」
心臓がぎゅっと締めつけられた。
「そんなの……当たり前じゃない。本気で好きだから、一緒にいたかったんだよ」
彼は静かに目を伏せ、何も答えなかった。
別れた後も、彩は納得できなかった。
「本気になりすぎる」って、どういう意味だったのか。
答えが欲しくて、何度もメッセージを送った。電話もした。
でも、彼からの返信は来なかった。
――そして、数週間後。
偶然、彼が別の女性と歩いているのを見かけた。
大学のサークルの後輩だった。
彼女に寄り添いながら楽しそうに笑う悠真を見て、ようやく悟った。
「……私、ただ“次”に行かれただけだったんだ」
彼は、最初から冷めるのが早かったのかもしれない。
でも、彩は本気だった。
だからこそ、こんなにも痛かった。
こんなにも傷つくなら、もう二度と本気になりたくない――。
それ以来、彩は恋愛を「サブスク」のように考えるようになった。
ステータスの良い相手と、一定期間の付き合いを楽しむ。
期限が来たら、深追いせずに終了する。
それなら、もう傷つかなくて済む。
そうして、彩の心はどこか冷めたものになっていった。
***
美咲が言った言葉が、今も心に響いている。
「彩、怜央さんに対しての気持まで否定しちゃうと、この先ずっと同じことを繰り返すことになるよ?」
その言葉に、彩は少しだけ動揺した。
確かに、怜央に対して無関心を装っていたけれど、心の中では彼に対する気持ちが大きくなってきていることを感じていた。
それでも、どうしても自分の気持ちに蓋をしてしまう。
(本気になったら、また傷つくのが怖い。
また、あのときみたいに……)
その日、彩は自分の感情をどうしても整理できなかった。
怜央に対しても、心のどこかで「本気にならない方が楽だ」という気持ちが強かった。
***
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藤木 悠真(ふじき ゆうま)――同じゼミに所属していた先輩で、学内でも評判の優等生。
成績優秀、スポーツもできて、性格も穏やか。
教授からの信頼も厚く、男女問わず好かれるタイプだった。
彩は最初、そんな彼を「高嶺の花」としか思っていなかった。
どうせ彼は、自分と同じように完璧な誰かと恋をするんだろう、と。
しかしある日、ゼミの課題でペアを組んだことがきっかけで、二人は急接近することになる。
「彩って、結構ストイックだよな。いつも努力してるの、見てるよ」
そう言って真剣な眼差しを向けてきた悠真に、彩は驚いた。
「……え? そんなことないよ」
照れくさそうに笑いながらも、胸の奥がじんわりと温かくなる。
その視線に、彩の心は自然と惹かれていった。
やがて彼から告白され、二人は付き合い始めた。
悠真との時間は、まさに夢のようだった。
彼は彩を大切にしてくれた。
疲れているときは温かい飲み物をそっと差し出し、試験期間中は一緒に勉強して励ましてくれた。
「彩ってさ、たまにすごく無理するよな」
ある日、ぽつりとそう言われた。
「え?」
「なんでも一人で頑張ろうとするけど、俺にも頼っていいんだよ」
その言葉に、彩は何度も救われた。
恋に落ちるとは、こういうことなのだと初めて知った。
けれど、幸せは長くは続かなかった。
ある日の夕方、いつものようにカフェで待ち合わせをしていたとき。
悠真は、静かに口を開いた。
「……別れよう」
その言葉が落ちた瞬間、彩の時間が止まった。
「……え?」
あまりに唐突だった。
「俺たち、たぶん合わないと思う」
「ちょっと待って、それってどういう――」
何か大きな喧嘩をしたわけでもない。
彼の気持ちが冷めたような素振りも、見せたことがなかった。
必死で食い下がる彩。
「何がいけなかったの? 私、何かした?
悠真が嫌なところは直すからっ、お願いそんなこと言わないで。」
悠真は首を横に振るだけだった。
「そういう問題じゃない」
「じゃあ、何で?」
「……彩は、本気になりすぎるんだよ」
心臓がぎゅっと締めつけられた。
「そんなの……当たり前じゃない。本気で好きだから、一緒にいたかったんだよ」
彼は静かに目を伏せ、何も答えなかった。
別れた後も、彩は納得できなかった。
「本気になりすぎる」って、どういう意味だったのか。
答えが欲しくて、何度もメッセージを送った。電話もした。
でも、彼からの返信は来なかった。
――そして、数週間後。
偶然、彼が別の女性と歩いているのを見かけた。
大学のサークルの後輩だった。
彼女に寄り添いながら楽しそうに笑う悠真を見て、ようやく悟った。
「……私、ただ“次”に行かれただけだったんだ」
彼は、最初から冷めるのが早かったのかもしれない。
でも、彩は本気だった。
だからこそ、こんなにも痛かった。
こんなにも傷つくなら、もう二度と本気になりたくない――。
それ以来、彩は恋愛を「サブスク」のように考えるようになった。
ステータスの良い相手と、一定期間の付き合いを楽しむ。
期限が来たら、深追いせずに終了する。
それなら、もう傷つかなくて済む。
そうして、彩の心はどこか冷めたものになっていった。
***
美咲が言った言葉が、今も心に響いている。
「彩、怜央さんに対しての気持まで否定しちゃうと、この先ずっと同じことを繰り返すことになるよ?」
その言葉に、彩は少しだけ動揺した。
確かに、怜央に対して無関心を装っていたけれど、心の中では彼に対する気持ちが大きくなってきていることを感じていた。
それでも、どうしても自分の気持ちに蓋をしてしまう。
(本気になったら、また傷つくのが怖い。
また、あのときみたいに……)
その日、彩は自分の感情をどうしても整理できなかった。
怜央に対しても、心のどこかで「本気にならない方が楽だ」という気持ちが強かった。
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