外の風が気持ちいい週末の午後、彩は美咲とカフェのテラス席にいた。
目の前にはアイスティーと、チーズケーキ。
彩がストローを指でいじりながらぽつりとつぶやいた。

「“更新ボタン”の話、したんだよね。怜央さんと」

「は? 何それ、ついに延長希望しちゃった?」

美咲が面白そうに身を乗り出す。

「……マジで好きになっちゃったとか?」

美咲が茶化すように言った。
彩はすぐに首を横に振る。

「違うって。なんか、ふと気になっただけ。……もし押したらどうなるのかなって」

「いやいや、それ聞いてる時点で、もう気になってるやつじゃん」

美咲が即ツッコミを入れる。

「だから、そういうんじゃないって」

彩は慌ててストローを噛みながら否定する。

「……別に“好き”とかじゃない。ただ、次を探すのってちょっと面倒だなって思っただけ」

「ふぅん?」

美咲は、じーっと彩の顔を見つめる。

「面倒って、たとえばどういうとこが?」

「……また一から関係作って、探って、気を遣って……そういうのがだるいなって」

彩はグラスの中の氷を見つめながら、言葉を探す。

「それに……怜央さんとは、そういう“探り合い”しなくていいから、ちょっとだけラクなんだよね」

「それ、“気が合う”ってことじゃん。で、しかも顔が良いんでしょ?笑」
「それは否定しない」

ふっと笑いながらも、彩の目はどこか遠くを見ていた。

「ねえ彩、それってさ……気づいてないだけで、ほんとはちょっと“好き”に近づいてるんじゃないの?」

美咲はやさしい声で続けた。

「彩、怜央さんに対しての気持ちまで否定しちゃうと、この先ずっと同じことを繰り返すことになるよ?」

その言葉に、彩は思わず言葉を失った。
何もかもが順調な気がするのに、なぜか怜央に対してだけは、心の奥で警戒している自分がいる。

それは――また傷つくのが怖いからだった。
そのとき、彩の脳裏に過去の記憶が蘇る。


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