東京の夜景が広がる高層レストラン。

主人公・白石 彩(しらいし あや)、28歳。
彼女は、目の前の男性と軽くグラスを合わせた。


「これから3ヶ月間よろしく」


相手の名前は、橘 怜央(たちばな れお)31歳。
急成長中のベンチャー企業を率いる若き社長。
黒髪を無造作にかき上げる仕草が自然で、スーツ姿も完璧。
まさに彩が好む「ステータスと条件のいい男」だった。

──恋愛もバッグも洋服も、サブスクでいい。

彩の恋愛観はシンプルだった。
長く付き合うと面倒になるし、重くなる。

別れ話のストレス、価値観のズレ、相手の家族との関係、
そんなものに振り回されるのは時間の無駄。

だから、一定期間だけ付き合って、気楽に楽しめればいい。
付き合っている間はお互いに恋人として過ごす。
でも、期限が来ればスッパリ終了。

それが彩のスタイルだった。

──時代によって、恋愛の形は進化する。

かつてはお見合いが主流だった。
その後、合コンやナンパ、街コンや婚活パーティーが流行し、
今ではアプリやSNSが出会いの主流となった。

時代が変われば、恋のあり方も変わる。

今、彩が使っているのは──
期間限定のサブスク恋愛アプリ。

このアプリのルールはシンプルだ。
交際期間は最短1日から最長6ヶ月まで選択可能。
期間終了後は自動的に解約。延長は不可。
もし途中で気に入らなければ、ワンタップで即解除。

──まるでブランドバッグや洋服のサブスクのように、恋人も定期的に変えられる。

「今月はエルメス、来月はシャネル」みたいに、
「今回は医者、次は商社マン」みたいな感覚で。

「恋人を変えるのに、いちいち罪悪感を持つ必要なんてない」
「このシステムなら、面倒な感情に振り回されることもない」

実際、最短1日で終わったこともある。
アプリを通じて知り合った相手と、デートしてみたものの会話が微妙すぎて、
その日の夜には「解約」ボタンを押していた。

相手から「え、もう?」と驚きのメッセージが届いたが、気にしない。

彩にとっては、つまらない映画を途中で観るのをやめるのと同じ感覚だった。

数日前ー
東京の夜景が広がるワンルームの部屋で、
彩はスマートフォンの画面を指でスクロールしていた。

"恋愛サブスクアプリ <Love Cycle>" の通知が鳴る。
"新しいマッチング候補がいます" の文字が画面に浮かび上がった。

「また来た…」

「ん?イケメン。しかもハイスペックだわ。
今回は君に決めたっ!」(マッチング成立のボタンを押す)

──これが橘怜央との出会い。

期限が来たら、終わる。
相手がどんなに条件のいい怜央だったとしても。

「3ヶ月後、また新しい恋をすればいい」
──そう思っていた。