吸血少女はハニーブラッドをご所望です(コミカライズ原作です)

 焦げ茶色のローファーに足を突っ込むと、それまで玄関先を箒ではいていた家政夫のスグルくんが、苦笑いしながら手をあげた。

「行ってらっしゃい、深緋ちゃん」
「うんっ、リリーさんのことよろしくね?」

 やんわりと笑うスグルくんに手を振り、鞄の中から折り畳みの日傘を広げて差した。駅までの道を徒歩で進む。

 今日も深緋の祖母、朝比奈(あさひな)すずゑは絶好調だ。本名がすずゑであるのに対して、リリーさん(・・・・・)という呼び名はいかなる理由からくるのか。

 疑問に思ったことはあるけれど、いまだかつて、なぜと尋ねたことはなかった。職業柄、祖母が当たり前のように使っている源氏名の、リリアが関係しているのだろう、そう解釈したせいもある。

 何にしろ、祖母に対して本名(・・)おばあちゃん(・・・・・・)は禁句で、リリーさんと呼ぶように小さな頃から躾けられている。

 祖母は深緋より百年(・・)は生きているはずだが、見た目で言えば二十代後半(・・・・・)にしか見えない。深緋たち、一族の事情(・・・・・)を知らない人が見れば、彼女は間違いなく美女なので、ああやって年寄り扱いをすると本気で怒られる、というわけだ。

「深緋!」

 駅の改札を通り抜けたところで名前を呼ばれた。同級生の大路(おおじ) 白翔(はくと)だ。

 柔らかそうな茶色の髪がふわりとゆれる。「おはよう」と言いながら深緋に追いつき、白翔は二重の双眸(そうぼう)を細めた。