「なんだい、その屁理屈は」
「だって。童話の女の子は好きな人と結ばれたから悲しくなったんでしょ? それに恋に落ちた相手の血はびっくりするほど甘くて美味しいって聞いたし。やっぱり興味はあるよ」

 したり顔で持論を語ると、祖母は怪訝そうに眉根をひそめた。

「私、一度でいいからそんなハニーブラッドを味わってみたいの。そこにどんなトキメキがあるのか……想像するだけでワクワクするの」
「ちょっと待て、深緋(みあか)
「なに?」
「恋した相手の血が美味しいなんて、一体だれから聞いた?」

 ()め付けるような迫力のある視線から逃れ、ハテと首を傾げる。

「リリーさんだよ? えっと、確かね。……酔ってくだまいてたけど、二十年ぐらい前に」

 深緋(みあか)を差した、祖母の美しい指が力なく曲がる。困惑した様子で腕を組み、うーん、と唸っている。

「……アタシ、そんなこと言ったかな? 記憶にないよ」
「酔ってたからでしょ?」
「うーん……」
「あと、歳だから」

 瞬時にして、祖母の瞳に怒りの色が宿った。これはまずいと雑な手つきで通学鞄を引っつかみ、一目散に玄関へ走る。

「コラー!! 深緋(みあか)ッ!! 帰って来たらタダじゃおかないからねーっ!?」
「行ってきまーす!」