「りり子〜っ、朝ごはん食べてる〜?」
庭に立てた物干し竿を見上げ、バスタオルを数枚、ピンチで止める。大人用と子供用のハンガーを並べて、空を仰いだ。今日も突き抜けるような晴天だ。
「りり子〜?」
洗濯カゴを手に掃き出し窓を開けて、一階のテラスから室内に入った。リビングに置いた大きなサイズのテレビ画面を見つめたまま、幼い娘はつい二十分前と全く同じ体勢で座っていた。朝食に用意したホットケーキやヨーグルトサラダに手を付けず、好きなアニメに没入している。
深緋はエプロン姿のままで腕を組み、呆れてため息を吐いた。テレビと自分だけの狭い世界に浸りきり、それ以外の音は全てシャットアウト、というわけだ。
仕方なく娘に近づき、しゃがんで声を掛けた。
「りりちゃん? 朝ごはん、ちゃんと食べて行かないと幼稚園でお腹すいちゃうよ?」
「……うーん」
「あと三十分で家を出るよ? 幼稚園バスに乗り遅れちゃうよ?」
「うーん……」
相変わらず反応の薄い娘の目の前で、パタパタと手を振ると、娘はハッとし、「ママ」と呟いた。
「朝ごはん。とっくにできてるよ? ちゃんと食べて行かないと、パパが心配するかも?」
「そうだった!」
娘のりり子は慌ててフォークを掴み、ようやくホットケーキと向き合った。メープルシロップがかかった甘い三角形にパクつき、リンゴジュースを飲んでいる。



