吸血少女はハニーブラッドをご所望です(コミカライズ原作です)

 月光の中で執り行われる儀式とは、一体どういうものなのだろう。今日を最後に、本当に人間になれるだろうか?

 期待と不安を抱えながら、深緋たちは三度目の谷へと辿り着いた。

 目の前に強度のある塀が高くそびえて建っている。すぐそこには鉄柵で遮断された石造りの門が見える。

 真っ暗な山道で少し時間は掛かったが、迷うことなく順調に進んで来れた。入り口の前で時間を確認すると午後八時に差し掛かろうとしていた。予定通りに着けてホッと安堵する。

「ここが女人の谷です」

 へぇ、と呟き、織田が灰色の壁を仰ぎ見る。

「谷って言うから崖下をイメージしてたけど、全然違うね」

 そう独りごち、なんの躊躇いもなく鉄柵の門へと歩みを進めた。あ、と声を掛ける間もなかった。

「すみませーん、誰かいますかー?」

 夜の静けさも手伝い、織田の声がやたらと響く。内心でギョッとして、白翔と共に彼を止めようと服の裾を引っ張った。

「織田さんっ、そんなあからさまに」
「何用だ?」

 鉄柵の向こうにぬっと顔が現れて、深緋は半歩後ずさった。トン、とぶつかった背中に白翔の温もりを感じた。

「今日儀式の予約をした女の子と同行した者ですが、門を開けて貰えますか?」

 落ち着いた口調で微笑む織田を見て、門番の女性が舌舐めずりをして笑う。今日の見た目は四十代ぐらいだろうか。