深緋、深緋……。何度か名前を呼ばれて揺り起こされる。目を開けた瞬間、一体なにが起きたのかわからなかった。白翔、と。ただぼんやりと呟いていた。
「あいつに……織田に血を吸われたんだよ」
言われてすぐ、それまで一緒だった織田が席を外しているのに気がついた。確か、女人谷へ連れて行けとお願いされて、ご飯を食べていたはずだ。
それから吸血の作用で抜け落ちた記憶を、白翔に埋めてもらった。二、三日中に返事をする、と返した自分の意思を思うと、谷の許可を得てからにしようと考えたのだなと予測する。
白翔と並んで帰路を辿りながら、しまったなと後悔していた。うっかり油断していた。織田にまたもや吸血されてしまうとは。
自分の血を吸われてはいけない、と先日、カムイさんから言われていたのに。「後々厄介な存在になる」かもしれないという台詞を思うと、不安で堪らなくなる。
いずれにせよ、また女人谷へ電話しなければいけない。当日織田を同伴させて良いものか、ドラキュラとなった彼に既に二度吸血を許してしまった、その二点を伝えるために。
数日前、祖母の件で一度掛けているので、これで二度目になる。
スマホを耳に当てながら申し訳ない気持ちいっぱいで用件を告げると、小さな嘆息が伝わった。
『案ずるな』とカムイさんの声が言う。前回会ったときより低めの、落ち着いた声だ。



