「俺はさぁ、今のこの体質(・・)が気に入ってる。元々女が恐怖に歪む顔を見るのが好きなんだけど、以前(まえ)みたいなリスクがない。ドラキュラになったおかげで色々と得るものも有ったし、欲に従って血を貰っても相手は気絶しちゃう。しかも忘れてくれるなんて最高だよね?」

 言いながら織田はテンションを上げて笑った。その様が不気味でぞくっとなる。「深緋ちゃんはさ」とまた織田が続ける。

「交渉内容について、なにを言い淀むことがあるの? 尾行のときに聞いてるからなにが欲しいのかはわかってるよ? キミが敢えて言いたくない内容も」
「……え?」

 不安に眉を寄せたまま固まっていると、織田は呆れて笑い、深緋の言葉を引用した。

「“わざわざ嫌な思いをして作らなくてもいいなら、あの男と知り合って、交渉して。血を分けてもらった方がいい”……だっけ?」

 そうだった、と思い至り、愕然とする。異常な聴覚を持つ織田に、すでに情報を与えすぎていた。だとしたら次に訊かれるのは……。

「キミの言う嫌な思いってなに? 深緋ちゃんにとって、ドラキュラを作ることはなにか罪悪感を伴うことなの?」

 案の定、一番訊かれたくない内容をグサリと突いてくる。深緋は動揺を露わにした。「それは……」と呟いたきり、瞳を左右に泳がせる。気が動転して言葉が見つからない。