人通りのない暗い路地裏で、織田と二メートルほどの距離をあけて立っていた。さっきから彼が放つ威圧感が半端ない。どこか飄々とした態度でありながら、友好的な雰囲気すらも滲ませる。

 ドラキュラの特性を活かして、こちらの心臓の音や微細な表情の変化まで読み取られているかもしれない。深緋は目の前の男に、自分を形取る全てが支配されているかのような、そんな錯覚を覚えた。

 まず、なにをどう話せばいいか迷った。確かにこの男の住処を探ったあと、改めて交渉するために会いに来るつもりでいた。しかしながら、話し合いは一方的に進められ、話してごらん、とお膳立てまでされている。

 交渉で話す内容は決まっている。けれど、下手に情報を渡すと後が怖い。

 率直に織田の血を分けて欲しいと伝えたら、なんのために? とその理由を問われる。人間になるための儀式を受けるためと答えたら、そんなことができるの、と突っ込まれる。更にはどんな方法で? とか、どこで行うの? とか興味を持たれたら話がややこしくなる。女人谷の存在を明かすことになるかもしれない。

 熟考したまま、交渉内容を切り出せずにいると、「じゃあまた俺のターンね」と言って、織田が再び会話の手綱を握った。