吸血少女はハニーブラッドをご所望です(コミカライズ原作です)

「なんで」とそこでようやく声が出た。数歩、足を進め、白翔の隣りに並んだ。白翔に至っては、真剣な顔で沈黙を守っている。

「なんで私のこと、知ってるんですか?」
「なんでって、前に会ったことあるよね? 確か初夏だったかな。夜の住宅街で俺とぶつかってさ。送って下さいって頼まなかった?」

 あのときのことを、覚えてるの? もうひと月半も前のことで、少し会話を交わした程度なのに。

 織田は俯き、「なんてね」と、したり顔で笑った。さながら、ドッキリ大成功とネタバラシをする芸人のような得意顔だ。明らかに自分の方が優位な立場だと見せ付けてくる。

手紙(・・)、送ったでしょ? まだ二通だけどさ。結構いい感じに撮れてたと思うんだよなぁ」

 瞬間、目を見開いた。みぞおちを打たれたような衝撃で声すら出せない。無防備な状態でいたところに、突然爆弾でも投げられたみたいだ。

 冷静さを取り戻すように、深緋はふぅー、と長い息を吐き出した。

「あ、れは。木下(・・)さんが?」

 織田の記憶のなかでは、深緋は木下 ミツルの名しか知らないことになっている。吸血で気絶させて、勝手に身分証を盗み見たことは黙っていようと思った。

「そうだけど……。ごめん、俺の本名は織田 将吾っていうんだよね。あのとき言ったのは偽名だからさ。そっちの名前は忘れてよ?」
「……わ、わかりました」