「……何だよ、あれ」
——いつからか、深緋の行動を遠目に見ていた人影が、不満をもらし、拳を握りしめていた。同じく教室に戻るため、そのまま静かに歩き出した。
*
「えー……、先々週に引き続き、今週もこの辺りの地区で通り魔情報があがっているので、くれぐれも夜の外出は控えるように。以上」
教卓に手を置き、淡々とした口調で連絡事項を述べる担任教師。彼の言葉を受けて少しだけ教室がざわついた。
「通り魔だって……。ヤバ」
「今までに襲われたのは二人で、三十代の女の人って親に聞いたよ。念のため来週までは塾休めってさ」
「自由に出歩けないとか、ほんとストレスたまるよねー。勘弁してほしいよ」
生徒たちの会話を耳にしながら帰り支度を済ませ、深緋は通学鞄を手に教室を出た。
「深緋!」
一階の昇降口に差し掛かったところで、白翔に呼び止められた。
「もう帰るんなら送って行くよ」
「必要ない」
「なんだよ、帰り道だろ。それにさっき聞いた通り魔の件も気になるし」
「だから必要ないって」
冷静な口調でピシャリと言い切ると、白翔はそれ以上なにも言えずに俯いた。
「ごめんね、白翔」
王子 白翔に群がる女子どもの監視がウザったくて、彼を置き去りに早々と帰路についた。
「ただいま」
学生鞄を奥のソファーに下ろし、居間でくつろぐ祖母の隣りを通り過ぎる。
「お帰り、深緋」
そう言ってすぐ、祖母が犬みたいにスンスンと鼻を動かし、深緋を睨み上げた。



