滑らかな首筋がすぐそこにあって、瞳がギラつくのを感じた。鼻がひくついた。甘い血の味を思い出し、口内にじわっとヨダレが溜まる。

 深緋の異変などつゆ知らず、白翔が物憂い吐息をついた。

「深緋のこの匂い、好き」
「……ごめん。キツい」
「へ?」

 深緋はボソッと呟き、白翔の胸を向こうに押しやった。僅かな間隔が空く。

 もはやぎりぎりの線で欲望を抑え込んでいるので、吸血の欲に囚われる。

「血が……っ、欲しくなる」

 毎日吸血する習慣がついているので、深緋にはあの村の女性たちのような耐性がない。

 至近距離で白翔の目を覗き込むと、彼は真顔で固まっていた。ヨダレが出そうな気がして、下唇を軽く噛んだ。目の前の白翔が美味しそうで歯が疼く。

「深緋。目が」

 彼が何を言いたいのかを察して、目を逸らした。欲望がおさまるまでベッドの端の白いシーツを見つめた。

 静寂の間にコンコンとドアを叩く音が響いた。

「失礼します、大路さん」

 名を呼んで病室に入ってきたのは女性の看護師だ。彼女は、あら、と声を上げた。

「意識が戻ったんですね、良かった。すぐに医師(せんせい)を呼びますね」

 看護師は顔色の良い白翔を見たあと、丸椅子に座り直した深緋に目を向けた。

「あれ、妹さんは?」

 怪訝な顔をする彼女に、作り笑いで取り繕う。