驚きから目を見張り、白翔は自分の腕や脚を見て、怪我がないかどうかを確認している。

「大丈夫。怪我なんかしてないよ?」

 パチパチと瞬きしながら、彼は困惑したように眉を寄せた。

「あの村に入る前、約束したよね? 目的を果たしたら、ちゃんと全部を話すって」
「……あ、うん」
「多分、白翔にとっては現実味のない話になると思うけど。時間が無いから、ちょっと早口で言うね」

「うん」と相槌を打ちながらも、白翔は首を捻っている。

「昨日白翔と一緒に入った“女人の谷”は、宗教団体なんかの組織じゃなく、古くから女吸血鬼だけが暮らす集落なの」
「きゅう、けつ、き??」
「そう。女吸血鬼はね、男の人の血をエネルギーとして歳を取ることなく、何十年も何百年も生きることが出来るの。
 男の血を吸ってさえいれば、不老長寿。だから白翔をあの谷に入れたくなかったの」

 話を聞きながら白翔は真顔になり、考えを巡らせた様子で眉をひそめた。

 腕時計に目を据えて、(はな)を啜った。残り時間は……おそらくあと一分。

「あの村は吸血鬼が暮らすところで……俺はあそこのだれかに血を吸われたってこと?」
「……うん。量から考えて。五人以上に」

 秒針が残り三十秒を切ったとき、「それじゃあ」と意を決したように白翔が言った。