「僕は魔王。王宮の兵たちから命を狙われている」

 思ってもみない紹介に目を見開く。
 冗談だと種明かししてくれればいいのに、魔王は生真面目な顔でこちらを見てくる。よく見たら、ちょこんと正座している。背筋もピンと伸ばして。
 だが今、問題にすべきところはそこじゃない。

「……今なんて? 魔王……?」
「ああ」
「魔王が、勇者に助けを求めていると?」
「そうだ」

 即座に肯定されたものの、花音は肩をふるふると震わせた。

「普通、逆でしょ! 魔王が助けを求めてどうするのよ。しかも、敵である勇者に!」

 世間一般的に、魔王は退治される側だ。
 召喚された勇者や異世界人によって滅ぼされ、世界には平和が戻る。そしてハッピーエンドが訪れる。まかり間違っても、魔王が勇者を召喚するような展開は断じてない。
 だというのに、目の前の魔王は思案顔で答える。

「周りからは魔王と呼ばれているが、僕はただの魔法使いだ」
「…………んん?」
「ここは妖精の城。僕は妖精に好かれている。魔法を極めたくて引きこもっていたら、いつの間にか魔王と呼ばれるようになっていた」