異世界召喚された先は魔王様の寝室でした

 あわあわしていると、不意に大事なことに気づく。
 見知らぬ男に横抱きされている現場を、もしもクラスメイトに目撃されたら。

(やばい、どころじゃない……)

 想像するだけで羞恥で死ねる。
 噂は学園中を駆け巡り、背びれ尾びれがついた状態で、花音は友人やクラスメイトから質問攻めに遭うだろう。逆の立場なら嬉々として根掘り葉掘り聞く側にいくが、答えるまで帰さないと言われる側はご免被る。

「じ、自分で歩けるから……っ! おろして!」
「そんな悲愴な顔で言われても説得力に欠けるな。大丈夫だ、うっかり落とすようなヘマはしない。僕を信じろ」
「ち、ちが……っ、そういうことじゃなくてね。いいからおろして」
「はは。カノンは表情がくるくると変わって可愛いな」
「……かかかか、可愛い……?」
「ああ。可愛い」

 至近距離で「とても愛らしいな」と感慨深げにつぶやかれて、ボンッと首から上が火を噴いた。腕の中で暴れる気力も消え失せ、ぐったりとうなだれる。
 ヴァルラントは満足げに花音の額に唇を寄せた。

   ◇◆◇

 かくして異世界召喚された少女は、魔王と呼ばれた男を連れて元の世界に戻った。
 彼らの物語はまだ始まったばかり。「勇者ではなく花嫁だったな」と気づいたヴァルラントが改めて求婚するのは、もう少し先の話。