「あんた、何聞いてたの?」


え? と聞き返すゼルにエナは呆れ口調で答える。


「イェンって人、船持ってんのよ? 交渉するに決まってんでしょ。あんた馬鹿?」


別に他の港町に移動してもいいが、ご飯のついでに交渉が出来るのならば、それが一番良い。


「お前なぁっ! すぐそーやって人をバカにした目で見ンのやめろっ!」


年下であるエナに馬鹿にされることに抵抗があるらしいゼルは声を荒げた。

だが、本気で怒っているのかどうかくらい、エナにもわかる。


「だってバカにしか見えないんだもん」

「そーじゃなくてだなぁ! オレが言いたかったのは、交渉するネタが無ェだろっつーことで!」


その通りだと唸りかけたエナの横でジストが口を開いた。


「大丈夫だよ、それは」


いやにきっぱりとした物言いに、エナが疑問を口にしようとした時。


「此処に居たって何も始まらないし、歩かない?」


ジストはさっさと歩き出す。

エナは考えた。

このまま体温を奪っていく雨の中で突っ立っていても仕方がない。

ジストが大丈夫だというのだから、きっと大丈夫なのだろう。

なんといっても、イェンはジストの知り合いなのだから。


「そーね。とりあえず、当たって砕けろ、よ」

「砕けたら意味ねェだろが」


ぼそりとした突っ込みにエナは隣を歩くゼルを睨みつけた。


「揚げ足とるな、トリ頭!」

「トリ頭だァ?!」

「あ、間違えた? 鳥の巣頭だっけ?」

「誰が鳥の巣だコルァ!」

「喚くなっ! 焼き鳥にするわよっ?」


突如、二人の間に沈黙が訪れる。


「……」


「……」


「余計お腹空いてきたじゃないっ!」

「言い出したのはてめェだろっ!」


雨音だけが支配する空間に、二人の喧騒が賑やかに響き渡る。


「あー、もうお腹限界! 遠いっ! 屋敷が遠いっ!」


食事にありつけるとわかると、今度は屋敷までの道のりがやたら遠く感じるもので。

エナは喚いた後、気付いたように手を打った。