「ゼル兄、最近はどう?」

「んー?」


まだ生きているのだと錯覚する程、気安い会話。


「そーだな。実はまだ剣士にさえなれちゃねンだよな」


世界一の剣士になってやるという幼い日の約束。

それを、はは、と笑い飛ばすと、ロウウェルは大きな目を更に大きく開けてゼルを見た。


「そうなの? でも、ゼル兄、剣士だって言われてるよ?」


僕、噂聞いたもん、と主張するロウウェルにゼルも兄らしい微笑みを向ける。


「あったりまえだ。男は剣士になろうと剣を取ったその時から剣士だ。けどな、世界っつーもんは何かと白黒つけたがるもんでなァ」


一年前のことを思い起こし、ゼルの目は遠くを見つめた。


「トロルを飛び出して四年。傭兵やらなんやらやって、やっと大会に出れることになったってのに……な」


吐く溜め息は本心から出たもの。


「結局大会も途中棄権。オレはまだ一介の流れ者っつーわけだ」


言い訳はあった。

言い訳をするのならばいくらでも可能だった。

だが、その言い訳を聞かせるわけにはいかなかった。

ロウウェルが剣士を目指した者であったからこそ。


「ゼル兄は、剣士だよ」


ロウウェルが水面を見つめつつ、そう言った。


「そういうものはね、誰かが決めるものじゃない。誰もが決めるものなんだよ」


その言葉にゼルは目を瞠った。


「僕、知ってるよ。ゼル兄の噂。義手の剣士って。そう言われてる。ゼル兄は、剣士なんだ。何の称号が無くても。」


何を、勇気付けられているのだろう。

九つも年の離れた弟に。

剣士というのは、立派な職業の一つだ。

剣を振り回せばそれで剣士というわけではない。

世界有数の大国で開かれる武術大会。

そこで認められた者だけが実質、剣士という職業を名乗ることが出来る。

己を剣士と呼ぼうが呼ぶまいがそれは所詮、口の上だけのこと。