雨の闖入者 The Best BondS-2

男が発した言葉にエナの血は一瞬、凍り付いた。

目を瞠り、息を呑む。

その際に全身から放たれた、突き刺すような感情の発露に男が口元を引き締めたことを、彼女は気付かなかった。


「な、んで……そのこと……!」

「これしきのことでそこまで動揺されるとは……」


エナにとって、それはもう動揺の域を越えていた。

心臓が痛いほど激しく脈打つ。


「貴女は余りにも未熟だ……。だからこそ取引も出来るというものですが……」


エナは外套で見えぬ男の目を睨みつけた。

そして、気取られないように深く息を吐きだした。

目の前の男が一体どのような目的で今の言葉を紡いだのか。

読みかねて、エナはただ注意深く次に発するべき言葉を探した。


「何を、知ってんの」


「貴女の魂に刻まれた過去、全てを」


齎された言葉は余りにも抽象的で、何も知らないのか全てを知っているのか判断に迷う。


「過去を知るなど、私には造作もないこと」


誘導しているのか、それとも本当に調べたというのか……遥か辺境の地で起こった『あの事』を。


「私は、貴女を救ってさしあげたいのですよ」


好意的であるかの如き言葉は、しかし決して好意的なそれでは無い。

そうと知りつつ、エナの心は揺れた。