雨の闖入者 The Best BondS-2



見下される言動には慣れているとはいえ、こうもあからさまに敵意と害意を含まれた称賛となると、さすがのエナも眉をひそめてしまう。

傷つけるために敢えて選ばれた言葉でもなく、大人が自らの自尊心を守る為に子供だからと嘲笑う言葉でもない。

心底から、取るに足らない存在だと思っているのが伝わってくる、強者の言葉。


「私の願いを聞き入れるのならば、私は明かしましょう。貴女を傀儡と成すのはやめて」


共犯という誓いを立てろと男は言った。

仲間を裏切り、手を組めと男は唆した。

エナはより色濃い殺気を身に纏う。


「あたしが仲間を裏切ると、本気で思ってんの?」


だが、会話において一枚も二枚も上手である男はくすくすと笑うだけ。


「では、仲間を悪夢から救うためと考えられては如何ですか。そういう奇麗事は得意でございましょう?」

「ナメんなっ!」


エナの足が強く踏み込む。

三節棍が風を切り、唸る。

男の後ろには、壁。

男に逃げる場所などない。


「――!」


エナは目を見開いた。

男は一歩も動かなかった。

指一本動かす素振りも見せなかった。

だが、エナの放った攻撃は男が立つ後ろの壁へと直撃した。


――男の体をすり抜けて。


「な……っ!」


狼狽するエナに男はにやりと笑ってみせた。


「急ぐ必要はありますまいと、そう申したではありませんか。私には貴女と戦う気など毛頭ないのですから」


その笑顔に得体のしれないものを感じ、エナは飛びのいた。


「幽……っ!?」


幽霊かと思った。

だが言いかけて、それとはまた別のものなのだと悟る。

理屈ではなく、心で。

幽霊というには、この男の雰囲気は強すぎた。