雨の闖入者 The Best BondS-2

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「…………」


エナは黙って立ち尽くした。

呆然というよりも嫌な予感が体を支配する。

目の前には雨風を凌ぐだけの、老朽化を極めた小屋が異様な雰囲気を醸しだしてエナを拱(コマネ)く。


「……ヤな感じ」


陰の言いつけ通り、日が変わる頃に屋敷を抜け出して草木も眠る丑三つ時に一つの湖へと辿り着いていた。

昼間来た時は確かにこんな小屋など存在しなかった。

真っ暗な道の中で多少道に迷ったにしろ、此処は間違いなく昼に来た湖だ。

その証拠にゼルが滑って湖に落ちた部分にははっきりと土が崩れた後が残っている。

真新しい小屋ならば、急いで作ったのかとも考えられるが、

苔だか黴(カビ)だかが付着した腐りかかった木の外壁や、

何が原因で割れたのかわからない窓硝子、

穴のあいた屋根を修復した痕を見ればとてもじゃないが昨日今日出来たとは考えられない。


これで嫌な予感がしなければ人間としてというよりも動物としておかしい。

罠どころか、得体のしれない空気が蔓延している。

だが、腹を括って此処までこうして来た以上、突っ立っていても埒があかない。

エナは澱みない歩みで小屋の入口の段を二つ登り、蝶番(チョウツガイ)が取れかけている扉を、体重を乗せた肩を思いきりぶつけた。

蝶番が外れ、内側に倒れこんだ扉を跨いで中に入ると、埃が舞い上がり黴臭さが鼻を突く。

レインコートから滴る水滴が足元の腐った木の床にじわりと水溜りを作った。

フードを取り、暗闇へと懐中電灯の光と共に声を投げる。


「来てやったわよ」


懐中電灯が照らす先には、黒い外套に身を包んだ長い黒髪を持つ人間が杖を携えて立っていた。


「随分と荒い訪問だ」


昨日と同じ声――否、昨日の念とは違う、はっきりとした肉声に、フードを目深に被って顔も見せない人物が若い男だと確信する。

人を小馬鹿にした笑い声にエナは一瞬眉根に皺を寄せたが、直ぐに不敵な笑みを返した。