雨の闖入者 The Best BondS-2


「ケドよ……」


ぽつり、とゼルが言を次ぐ。


「重てェのは御免だけど、エナ、さっき言ったよな」

「? どのこと?」


目を瞬かせてエナは次の言葉を待つ。


「エナがエナじゃなくなったら、てヤツ」


ああ、とエナは頷いた。


「何をそんな不安になってンだか知らねェが、もし、お前が自分自身を見失ったトキがきたら」


ゼルが探り探り繋げていく言葉は、どんなに話術がある人間の言葉よりも心を宿していた。


「オレがお前を信じてやっから、お前はオレを信じりゃあいいよ」


聞いた途端、エナは吹き出した。

あっはははは、と声に出して笑う。


「てンめー、オレがマジメに……!」


憤慨するゼルの肩を叩いた。


「違う違う。可笑しいんじゃなくて」


エナは満面の笑みをゼルに捧げた。


「嬉しいの」


重たいと言いながら、抱えられないと言いながら。

その『信じる』ことが既にエナを仲間だと認めていた。

少なくとも、エナはそう受け取った。


「ありがとね」

「うっせー。もういい、前言撤回してやる」

「もー。拗ねんなって。ありがとって言ってんじゃん」


歩調を速めて歩くゼルに駆け足で追いついて、その背中に飛びついた。

ゼルのレインコートについた水滴がエナの手や肌を濡らす。


「だーっ! 重てェよっ!」

「重たくってイんだよー」

「オレがよかねェわっ!」


もう、寒さは気にならなかった。

心がどうしようもなく満たされて。

エナはゼルの背中から、ぴょんと飛び降り両手を口にあてた。

歩みを止めないゼルの背中へと。


「信じるからっ!」

「騒ぐな! 近所迷惑だろーがっ!」


面映ゆい空気が、陰鬱な雨さえも染め変えていた。






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