雨の闖入者 The Best BondS-2

「だから、もし。あたしの意味が無くなってしまうことがあったら、その時は……」


覚悟を決めた少女はひっそりと雨の中に吐息と共に想いを放つ。


「その時は、あたしを殺して」

「!?」


驚愕の表情で立ち止まったゼルにエナは半身だけ振り返らせて笑ってみせた。


ゼルは呆然としていた。

笑う口元とは対照的な神妙な瞳の意味。

低く小さく、けれど耳に残る確かな声。

心に刻みつける為に発せられた、その言葉。

意志の篭った、言霊。

その全てを真っ直ぐに捉えようとしていた。


「あんたとジストなら、其れが出来るから」


まるで、その為に行動を共にしているのだと言わんばかりにエナは告げた。


「何……言ってんだ……?」


呟くゼルの声は少し掠れていた。

動揺が走る目は、それでもしっかりとエナの目を見つめている。


――良かった。

エナは思った。

意志は遺志として、ゼルの心に錨を下ろした。

保険は、掛けられた。

まだ唖然としているゼルにエナはいつもの不敵な笑みを浮かべた。


「だーいじょぶ。そんな状況、陥る気もないし、あたしは誰を踏み台にしても幸せになってやるって心づもり、持ち合わせてんだから」


それはそれでどうかと首を傾げてしまうような発言だったが、この時ゼルはほっとしたような表情を見せた。


「なんでぃ……くだらねェこと言ってんじゃねェよ」


ゼルは苦笑という形で笑い飛ばした。

おそらく、人を踏み台にしてまで幸せを望まないだろう彼女の気質を知っているからこそ。


「エナがエナじゃなくなるなんて、世界がひっくり返ったってあり得ねェって」


理想と現実、正義と妥協。

自分の中に確かに存在する矛盾に歯痒いほど簡単にぐらつく感情。

それを隠してエナは胸を張る。