この日、二人は数時間をかけて昨日行けなかった残りの湖全てを探索した。
ゼルが転んだ湖もそうだが、一つ一つの湖自体、決して大きくはない。
池の延長線にあるような大きさのものばかりであった。
けれど、どの湖にも終ぞ小屋を見つけることはかなわなかった。
「ねえ、ゼル」
日が落ちはじめ、ただでさえ暗い空が闇の衣を纏う頃、山を下り屋敷へと繋がる大きな道を歩きながらエナは隣を歩くゼルを見上げた。
ジストといいゼルといい、無駄に伸びた身長はこういう時に不便だ。
五センチずつでも分けてくれればいいのに、とエナは不可能なことを真剣に考えてみたりした。
あん? と気の抜けた返事を受けて、エナは少し微笑んだ。
ゼルはエナを元気付ける。
特に何か励ますようなことを言うわけではないし、寧ろ、心配症の割には能天気で鈍感だったりするのだが、ゼルの隣に居ると心が透き通っていくような気分になるのだ。
朝露に濡れた草の匂いが漂ってきそうな、今日という日に希望が持てそうな。
清々しい元気をくれる。
たった一言、気が抜けたような返事であっても。
「あのね」
エナは一度言葉を切った。
「あたしは、あたしなの」
微妙な声音の変化に気付いたのか、ゼルがエナを見下ろす。
顔に「?」と書くゼルは言葉の続きを待っているようだった。
突然こんな突拍子も無いことを言い出したのだから、ゼルが対応に困るのも当然だ。
だが、言っておかねばならない。
今夜、あの『陰』と対峙せねばならないのだから。
「あたしはあたしで居なきゃ、意味無いの」
陰はエナを傀儡と言った。
踊らされていることに気付かずに踊り狂い死んでいく者だと言った。
だが、髪の毛一本、細胞の一つまで『エナ』を形作るものは全て自身のものだ。
それはエナの信念だった。
この人生を誰のせいにもしない為の信念だった。
誰かの支配の下、踊らされる運命にあるくらいならその時はエナは迷いなく死を選ぶ。
だから伝えておくのだ。
遺言めいた、この言葉を。
ゼルが転んだ湖もそうだが、一つ一つの湖自体、決して大きくはない。
池の延長線にあるような大きさのものばかりであった。
けれど、どの湖にも終ぞ小屋を見つけることはかなわなかった。
「ねえ、ゼル」
日が落ちはじめ、ただでさえ暗い空が闇の衣を纏う頃、山を下り屋敷へと繋がる大きな道を歩きながらエナは隣を歩くゼルを見上げた。
ジストといいゼルといい、無駄に伸びた身長はこういう時に不便だ。
五センチずつでも分けてくれればいいのに、とエナは不可能なことを真剣に考えてみたりした。
あん? と気の抜けた返事を受けて、エナは少し微笑んだ。
ゼルはエナを元気付ける。
特に何か励ますようなことを言うわけではないし、寧ろ、心配症の割には能天気で鈍感だったりするのだが、ゼルの隣に居ると心が透き通っていくような気分になるのだ。
朝露に濡れた草の匂いが漂ってきそうな、今日という日に希望が持てそうな。
清々しい元気をくれる。
たった一言、気が抜けたような返事であっても。
「あのね」
エナは一度言葉を切った。
「あたしは、あたしなの」
微妙な声音の変化に気付いたのか、ゼルがエナを見下ろす。
顔に「?」と書くゼルは言葉の続きを待っているようだった。
突然こんな突拍子も無いことを言い出したのだから、ゼルが対応に困るのも当然だ。
だが、言っておかねばならない。
今夜、あの『陰』と対峙せねばならないのだから。
「あたしはあたしで居なきゃ、意味無いの」
陰はエナを傀儡と言った。
踊らされていることに気付かずに踊り狂い死んでいく者だと言った。
だが、髪の毛一本、細胞の一つまで『エナ』を形作るものは全て自身のものだ。
それはエナの信念だった。
この人生を誰のせいにもしない為の信念だった。
誰かの支配の下、踊らされる運命にあるくらいならその時はエナは迷いなく死を選ぶ。
だから伝えておくのだ。
遺言めいた、この言葉を。

