雨の闖入者 The Best BondS-2

「なんでそう言い切れんだよ……っとぉわぁっ!」


意味の為さぬ声と共に、エナの前にある体がずるりと傾いだ。

エナが「あ」と声を出す間もなく、ゼルの体は一瞬宙に浮き、尻からの派手な着地を余儀なくされた。

まるでスローモーションのように体が地面に吸い付く瞬間、エナは自分がその衝撃を受けるかと錯覚したかのように、片目を瞑り、肩を竦めた。

濘んだ土が跳ねて、エナの長靴の中にひんやりとした感触を残して滑り落ちていく。


「げっ!入ったっ!」


エナが自らの足元を見る。

と、ゼルが尻餅をついたままの格好で喚いた。


「大丈夫? とか言えねェのかてめーはっ!!」

「ああ、そういやラフ、大丈夫かなぁ」


今日もラフは屋敷で留守番だ。

いつもはジストとじゃれあっているが、今日はそれも望めそうにないから、きっと退屈していることだろう。


「ラフじゃねェっ! オレを労われっ!」


遅ればせながら「大丈夫?」とそれほど感情の篭らぬ声を掛けながら――勿論ゼルはそれに対しても指摘したのだが――ゼルを見ると、その膝から下が濁った水に飲み込まれていることに気付く。


「あ。此処が最後の湖かぁ」


ゼルは道無き道の先に突如現れた湖の縁の土に足を取られたのだった。


「いーから先ず手ェ貸せよっ!」


だが、彼の手をちらりと見たエナは顎を逸らしてそっぽを向いた。


「嫌。泥まみれだもん」


ただでさえ雨が鬱陶しいというのに、何を好き好んで泥まみれの手を握りたいなどと思うものか。


「このクソ女(アマ)ぁっ!!」


自由奔放を座右の銘にしているのではないかと思えるほどに天真爛漫を振りかざす彼女は何処までも自分勝手に出来ていた。

少なくとも、仲間とか同士といったものを苦手とするゼルでさえ、振り回されてしまう程度には。


『こいつには絶対手ェ貸さねェ』


結局自力で立ち上がったゼルは固く心に誓った……らしい。





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