「ゼルは? 夢、大丈夫だった?」
話を振られたゼルは、ジストから視線を外してエナを見る。
「おう。別になんも。エナは?」
「さあ、爆睡したから」
――幸せな奴らだ。
ジストは心中で呟いた。
たとえば、単なる悪夢であればそれもよかった。
此処まで気が塞がることもなかっただろう。
だが、過去をなぞる夢だけは、いつもの仮面さえ取り払ってしまう程にジストを追い詰めた。
あの時感じた恐怖を、諦めを、そして慟哭を――鮮明な憎しみを。
今一度まざまざと思い起こさせる夢は苦痛以外の何物でもない。
「あ、そだ。今日、残りの湖調査、先でいい?」
スープでパンを流し込んだエナが、胸を拳で叩きながら話題を変えた。
ジストはそれを無視して黙々とサラダを食べ続けた。
否、聞こえてはいるが、聞いていなかったのかもしれない。
「いいケドよ、昨日の話じゃ海に行くっつってなかったか?」
「ん、そーなんだけど、ちょっと気になることがあって」
本来、ここで何かを気付くはずだった。
事実ジストはエナのその言葉に小さな引っ掛かりを覚えたのだ。
だが、昨夜考え事をした故の結果なのだろうと、ジストはそれを見過ごしてしまった。
「エナちゃん」
ジストの呼びかけに、エナは「なぁに?」と笑顔で問い返す。
ここで笑顔を浮かべるエナは、明らかに何かを隠していたのに。
こんな話題の時に意味の無い笑みを浮かべるような少女ではなかったと彼が気付くのは、もっとずっと後のこと。
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