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「どーしたよ? なんっか元気ねェな?」
翌朝、顔を突き合わせるなりゼルがこう尋ねた。
ジストは緩慢な仕種でゼルを見遣り、何の言葉を発することなく椅子を引いた。
目の前には焼き立てのパンや湯気をあげるスープが並べられていたが、ジストはそれには一切手を触れず、コーヒーを喉に流し込んだ。
元々朝御飯を食べないジストも、彼らと行動を共にするようになってから、徐々に生活習慣が変わりつつあった。
それでも、今日はどうにも手をつける気になれない。
「おは。」
珍しく欠伸をしながらエナがラファエルを引き連れダイニングに入ってくる。
ジストはにっこりと笑って、隣の椅子を引いてやった。
真っ先にラファエルがその椅子を陣取る。
「おはよう、エナちゃん。珍しいね、欠伸。よく眠れなかった?」
目を擦るエナは「うー……」と意味の無い声を発した。
どうやらまだ少し寝ぼけているらしい。
無防備なその寝起きの表情が、実際の年齢よりも更に幼く見せる。
エナはラファエルを退けて席につき、牛乳を一気に飲み干した。
「あー……ちょっと、考え事、してて」
ようやく先ほどの答えを口にしたエナに、ジストは「ふーん」と生返事を返した。
いつもならば「え、ジストさんとの将来でも考えてたの、大丈夫だよ、絶対幸せにするから」位は言うのだが、この時のジストにそんな思考は働かなかった。
エナもそのいつもとは違う反応を不思議に思ったのか、首を傾げてジストを見つめる。
「ジスト、どっか悪いの?」
訝しげな声音ではあるが、体調を心配してくれている。
この声には、ちゃんと答えなければ。
「夢見が、ちょっと……ね。大丈夫、たいしたことじゃないから、心配しなくていいよ」
ゼルが箸を止めた。
エナも、頬張ろうとしていたパンを口から遠ざける。
「夢見……? それって、例の悪夢……?」
探るような視線から逃れる為にジストは肩を竦めたあと、サラダに手を伸ばす。
食べたくもないそれを無理やりに口へ放り込む。
視線を浴びても、それ以降顔をあげようとしないジストによって訪れた沈黙をエナの小さな溜め息が遮った。

