「そんなにも、そのガキがいいのか……。実の家族よりも」
「家族と同じように大事に思って何が悪いの?!」
元来気の強いナナが怒鳴り返す。
「……同じように……?」
ナナの言葉に眉がぴくりと動く。
男のその心情を少年は鏡に映すかの如く読み取ることが出来た。
(同じじゃないよ…)
少年は自嘲気味に思う。
同じではなかった。
同じであるはずがなかった。
惜しみない愛情を注がれ、ただ可愛がられるだけの少年は家族ではなく、全く別の対象だった。
ペットか、もしくは。
(あの意地悪な兄さんが、姉さんに向ける気持ちと同じ……)
別室から覗く七歳年上の息子は今、目の前の男と全く同じ目を少年に向けている。
嫉妬と憎悪。
その対象が小さな小さな少年であることに罪悪感を覚えない程、少年は女達の全てを彼らから奪ってしまった。
血が繋がらない故に向けられた愛情が全ての原因だった。
「……やめてよ……」
そんな愛情の交錯など求めて居なかった少年は静かに言った。
「僕は一人で死にたい」
壊したくなかった。
全てを壊せる程自分に向けられた『愛情』に少年は畏怖した。
『愛情』には『憎情』が付き纏うことを、少年は肌で感じていたのだ。
そんな愛情に絡めとられて死んでいくのは真っ平だった。
言葉では理解しないまでも、心がそう判断した。

