雨の闖入者 The Best BondS-2

「嫌よ! やめて、父さん! この子はまだこんなに小さいのに!」


血の繋がらない自分を身をていして守ろうとしてくれるサーシャ。

だが骨にまで浸透するような温かい優しさや体温も、少年の心には届かなかった。


(……わかってないや……)


少年は静かに思う。

サーシャが、サーシャの母親が、庇えば庇うほど男の憎しみは増長していくというのに。

少年でさえわかっていることを、優しくも愚かな女達は気付かない。

ただこの家に置いてくれるだけで良かった。

本物の家族以上に愛されることなど望んではいなかった。

ただ少年は、一人じゃなければそれで満足だったのだ。


けれどもう遅い。

命をかけてまで守ろうとしたことで、全ての歯車が崩壊する。

この家族はもう元には戻らない。

男が刃をしまうことは、もう無い。


「どかんか! お前まで刺されたいのか!」


怒りを通り越した男の顔は赤らんでいるのとはまた別に蒼白で、包丁を持つ手も白く震えている。


「あなた! 何てことを!」

「ナナ! お前まで!」


サーシャの前に立ちはだかった妻を見て男は更に憎しみを募らせる。


「……そうか」


男は絶望に彩られた笑みを口元に張り付けた。


瞳が映すものは虚空。

何よりも暗い影。


少年はサーシャの腕の中で静かに目を閉じた。




もう、訪れるべき運命は決まった。





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