雨の闖入者 The Best BondS-2

今に男が怒鳴りこんできて、拳をぶつけてくるに違いない。


それでもいい。


殴られて、黄色く変色し始めた痣の上に新しい青い痣が出来る。

その繰り返しで、体から痣が消えることはないが、それが一つの家庭をめちゃくちゃにした代償ならば余りに安すぎる。


少年は小さな体に精一杯の力を込めて、男が怒鳴りこんでくるのを待っていた。



だが、この日は違った。



いつものように酒に酔い、怒鳴り散らした後に荒々しく開け放たれる引き戸。

わかってはいても慣れることない体はびくりと恐怖に支配される。

恐る恐る入ってきた人物を見遣る。

そうしなければ頭を掴んで力任せに振り返らされてしまうことを知っていたから。


「！」


そこにはいつものように鬼の形相になった男。

だが。いつもと違うのは。


「貴方やめてちょうだい！！」


居間の電気を受けて銀色に鈍く光る刃。

主に台所で活躍する野菜や肉を切る刃物。


そう、『肉』を切る道具……――。


三ヶ月前までは仲睦まじいことで有名だった夫婦。

現在ではいがみ合うようになった夫婦。

それでも此処に居ることを望んだのは少年自身。


そうか、と思う。

そうか、これが罰なんだ。