雨の闖入者 The Best BondS-2

「知りたいのであろう? この雨の正体を」


その言葉には答えず、用心深く問いを返す。


「……あんたの仕業?」


もしここで是と答えるならば、話は早い。

戦うだけだ。

正体不明の陰を相手に何が出来るのかといえば甚だ疑問だが、それでも目の前に居る以上、逃げること敵わぬのであれば腹を括るしかない。

だが、返る言葉はそんなエナの心中を知ってか知らずか真意を量りかねるもの。


「私の仕業だが私の所業に非ず」

「それは、あんたが死んでも何も変わんない、ってコト?」


いつもより少し低い声は充分に凄味を感じさせるに値するものだったが、陰は気に掛ける様子もない。


「それは正しくない表現といえよう。今よりもっと酷いことになろうよ」


エナは感覚が無い唇を噛みしめた。

鉄の味がうっすらと広がる。

ここで襲いかかっても仕方がないのならば引くしかあるまい。

意味の無い争いを、正体も掴めぬ相手に丸腰で仕掛けられる程、エナは無謀にはできていない。


「明日、行かなければ?」

「それも構わぬよ。結果は何も変わらぬ」


エナは、ぎりっと奥歯を噛み締めた。

結局のところ選択の余地は与えられていないのだ。


「行ってやろーじゃない……!」


相手の言葉を呑むしかなかった。

解決の糸口が確かに此処にあるのだから。


「そう。ただし、他言無用」

「……一人で来い、と?」


滅茶苦茶なことを言うものだ。

これほどに禍々しい存在であることを主張しながら、一人で来いとは。


「上等だ。首洗って待ってることね」


悔し紛れの宣戦布告。


「懸命な判断だ」


笑う気配がした時、一際強く寒い風が吹き荒れた。

目に飛び込んでくる雨水から咄嗟に目を庇い、エナはその風をやり過ごす。


そうして顔を上げた時、もうそこに陰などなく、
雨が全ての音も気配も形跡さえも掻き消しながら激しく降るのみだった。







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