雨の闖入者 The Best BondS-2

「!!」


気配も何もなかったエナの背後に闇の澱みを見出だし、エナは反射的に半歩後退さった。

一際濃い闇を生み出しているのは何かの陰。

目を凝らすが、それがどんな形をしているのかはおろか、実際この目に映っているものなのかどうかも判別できない。

エナよりも大きなその陰が身じろぎもせずに底冷えするような音を発した。


「何故、思うように歪まぬ……?」


空気を震わせる声とは違い、頭の中に直接入り込んでくるような思念は雨の音に邪魔されることなくエナの頭の中に音を産み落とす。

エナの肩が強張る。


「……誰?」


陰が喉を鳴らして笑った。

それも実際の音とは違い、頭の中に直接響く。


「知る必要もあるまい……が、知らずに死ぬのも憐れというもの……」


死――出会い頭、二言目に聞くような単語では無い。

結果を決めつけた物言いにエナは顎を引き、その陰を睨みつけた。


「お前は、愚かなる傀儡(クグツ)……踊らされていることも知らず、踊り狂い死んでいく傀儡」


男の声なのか、女の声なのか。

それすらもわからぬ思念は昏く、この心に闇の雫を投げ入れる。


「……どういう、こと」


喉を上下させて、腹に力を入れてそう言えば、その陰はまたも嗤(ワラ)う。


「数ある湖の中の一つ……その近くに小屋がある。明日の夜、そこで全てを明かしてさしあげよう」


憐れむような色を含ませたそれにエナは挑むように言葉を紡ぐ。


「そんな手、乗ると思う?」


何故、今ではなく明日なのか。

簡単だ。

そこに罠があるからだ。

罠とわかっていて、行く理由もないのにみすみす行ったりするものか。