それから小一時間。
 エナの機嫌は依然として悪化の一途を辿っていた。
 歩けども探せども、一向に腹を満たせずに居るからである。
 その頃には食べる料理の種類など、もはやどうでもよくなっていて、三人は「とりあえず腹が満たされりゃ腐りかけでも……」と思うに至っていた。
 もっと早くに気付くべきであった。
 人っ子一人姿が見えない港町で開いている店を期待する方が難しいということを。
 普通ならば在り得ないだろうが、この町に漂う異様な雰囲気が「普通なら在り得ないこと」を現実へと変えていた。
 何処の店も、開いていない。
 飲食店だけでなく、雑貨屋、家具屋、服屋までもがことごとく、その扉を固く閉ざしている。
 人の気配は確かにするというのに。
 これではまるで廃墟だ。
 何度か扉を叩いてみたりもしたが、返ってくる声はただの一つも有りはしなかった。

「……駄目。このままじゃ餓死する」
 今にも死にそうな顔でエナが呟けば。
「こんくらいで死んだりするかよ。餓死っつーのはもっと……」
 具体的に語ろうとするゼルを手でひらひらと制する。
「やめて。口上聞く体力も無いから……」
 どうやらエナの体力は胃袋の中の密度に大きく関係しているらしい。
 軽く睨みつけるが、その瞳にはいつもの半分の力も無かった。
「黙ってたって腹の減りは対して変わらねェぞ」
「じゃああんた、食べ物の話しない自信ある?」
「……」
 その沈黙を肯と受け取り、エナは再び前を向く。
「でも埒あかないんじゃないかな。このまま黙ってても、ウロウロしてても」
 ジストが至極もっともなことを口にした。
 港町の主要な大通りでさえ、こうなのだ。
 細道に回ったところで食べ物にありつける可能性はあまり多いとは言えない。
「じゃあどーすんの? この町、出る?」
「だからって、またトルーアに戻んのも意味ねェし」
 この港町ユーノの近辺にある街はトルーアくらいだ。
 他の街に行こうと思えばそれこそ丸一日はかかる。