「何かおかしいとは思ってたケドよ、まさか此処まで人が居ないっつーのはな……雨のせいってわけじゃ無ェんだろーな」
 トルーアから港町ユーノまで出ている筈の馬車の定期便が無かったことを指してゼルが言った言葉にエナが首を傾げる。
「雨に濡れたら頭ハゲるから……とか?」
「アホか。それじゃ、トルーアでも同じ筈だろーが」
「あ、そっか」
 怖い顔で黙っていたジストが急ににっこりと笑顔になった。
「まあいいじゃん。それより、ご飯にしようよ?」
「いいね! あたし、中華食べたい!」
 笑顔で挙手するエナにゼルが嘆息した。
「お前、マジに中華好きなのな」
「いや、中華はイイよ。多少素材が悪くても味付けでなんとでも誤魔化せる」
「ジスト。あたしは別にそういう意味で言ったわけじゃ……」
「港町っつったら、魚介類だろ。素材申し分ねェし」
「船も出てない港町で何が素材? 腐りかけた素材を使える中華が無難デショ?」
 その言葉に気付かされてゼルは押し黙った。
「だーかーらー! そういうつもりじゃなくって! 人の好きなモンに難癖つけるなっ!」
「でもよ、それ言うならイタリアンでもいいじゃねェかよっ!」
 思考をフル回転させてゼルが食い下がる。が、対するジストは冷静な酷評を下した。
「アレは味付けが似たもんばっかでメリハリがイマイチだ」
 ゼルが顔を歪め、エナが喚く。
「それには同感だけどっ! そーゆー話じゃないんだってば!」
 けれど、言い合いは続く。