魂が抜けたようにがっくりと項垂れる家主と同じ空の下。
「はー、いい天気」
豪華客船とまではいかないが、三十人程は乗船できる船を手に入れて上機嫌のエナは甲板で寝返りを打ちながら弾んだ声を出した。
その声に同意するかのようにラフが寄ってきてエナの頬を舐めた。
両手で抱え上げて腹の上に乗せて、鼻を小突く。
「ラフ……なんでラフだけ、夢の中であんな姿だったのかな?」
ラフは小突かれた指に鼻を摺り寄せ、一声、にゃあと鳴いた。
「あれ、エナちゃん、こんなトコで寝てたの? 気持ちよさそーだね」
船内から出てきたジストが笑いかけて、エナの隣に腰を下ろした。
「あ! 忘れてた!」
ラフを腹に乗せたまま体を起こし、エナは胸元に収まっていた二本の鎖の内の一本を引っ張り出した。
「コレ、返すね。」
紅の水晶を華奢で大きな手に乗せる。
「盗ったりして、ごめん。あんたの大事なモノなのに」
ジストは水晶をしばらく見つめた後、エナに再度微笑んでみせた。
「気にしないでー? お陰でエナちゃんとちゅーできたし? ま、味わう暇も無かったけど」
人差し指で自らの唇を指し示したジストにエナは顔を顰めた。
夢の中で受けた傷は全て治っていたけれど、ジストの唇の端にある傷だけはしっかりと残っていたから。
「……それも夢なら良かったのに」
「舐めてくれたら治るかもー?」
「忘れたいコトだっつってんのよ!」
いつもの喧騒が始まるかと思いきや、ラフがジストの足の上に飛び乗ったことで平穏な一幕は破られずに済んだ。
ラフが、ジストの唇を舐めたからだ。
愛らしいその行動に、二人は顔を見合わせた後、吹き出すように笑った。
「エナ、ジスト! メシできたぞ!」
エプロンをつけたまま甲板に姿を現したゼルの声。
「はぁい!」
両手を挙げてエナは満面の笑みで立ち上がり、駆け寄る。
輝く太陽が彼らを見守るように照らしていた。
―Fin―
「はー、いい天気」
豪華客船とまではいかないが、三十人程は乗船できる船を手に入れて上機嫌のエナは甲板で寝返りを打ちながら弾んだ声を出した。
その声に同意するかのようにラフが寄ってきてエナの頬を舐めた。
両手で抱え上げて腹の上に乗せて、鼻を小突く。
「ラフ……なんでラフだけ、夢の中であんな姿だったのかな?」
ラフは小突かれた指に鼻を摺り寄せ、一声、にゃあと鳴いた。
「あれ、エナちゃん、こんなトコで寝てたの? 気持ちよさそーだね」
船内から出てきたジストが笑いかけて、エナの隣に腰を下ろした。
「あ! 忘れてた!」
ラフを腹に乗せたまま体を起こし、エナは胸元に収まっていた二本の鎖の内の一本を引っ張り出した。
「コレ、返すね。」
紅の水晶を華奢で大きな手に乗せる。
「盗ったりして、ごめん。あんたの大事なモノなのに」
ジストは水晶をしばらく見つめた後、エナに再度微笑んでみせた。
「気にしないでー? お陰でエナちゃんとちゅーできたし? ま、味わう暇も無かったけど」
人差し指で自らの唇を指し示したジストにエナは顔を顰めた。
夢の中で受けた傷は全て治っていたけれど、ジストの唇の端にある傷だけはしっかりと残っていたから。
「……それも夢なら良かったのに」
「舐めてくれたら治るかもー?」
「忘れたいコトだっつってんのよ!」
いつもの喧騒が始まるかと思いきや、ラフがジストの足の上に飛び乗ったことで平穏な一幕は破られずに済んだ。
ラフが、ジストの唇を舐めたからだ。
愛らしいその行動に、二人は顔を見合わせた後、吹き出すように笑った。
「エナ、ジスト! メシできたぞ!」
エプロンをつけたまま甲板に姿を現したゼルの声。
「はぁい!」
両手を挙げてエナは満面の笑みで立ち上がり、駆け寄る。
輝く太陽が彼らを見守るように照らしていた。
―Fin―

