*
「ったく……なんなわけ、あのヤロ、胸糞悪いわ」
「あんなヤツ、男の風上にも置けねぇ! あいつは女だ!」
「ちょおコラ! 一緒にしないでくれるっ?」
「ま、こーなるんじゃないかとは思ってたんだけどねー。あの男、ドケチだもん」
話題に上っているのは、この不可思議で厄介な一件を依頼した家主だ。
あの後、エナ達が騒いだせいで港町の一角は目を覚ました。
騒ぎで起きた町人達は窓から零れる陽の光に跳び起きて鎧戸を開けて空を見上げた。
町人があげる喜びの声は協奏曲のように周囲の民家へと伝染し、白やんだ空の下で一瞬にして活気付いた。
そこまでは良かった。
家から飛び出る町人の顔は夢に取り付かれていた先程までがまるで嘘のように晴れやかな笑顔で、エナ達もその笑顔にようやく安堵したところに、腹の虫が盛大な合唱をはじめた。
昨夜は無理矢理詰め込むだけだった食事を思い返し、匂い立つスープや鉄板の上で弾ける肉の油に口の中が切なげにきゅんとなり、彼らが屋敷の中に取って返そうと身を翻した時。
そこには家主が立ち、空を見上げていた。
うっすらと涙さえ浮かべたその顔には死の恐怖から解放された喜びで溢れていたのだが。
虹が空へと溶けていくのを見届けて彼らに視線を移した家主の顔は……夏の空をも突き抜けるようでいて、沼の底よりも暗い満面の笑みで彩られていた。
「やぁやぁ、これは良い天気でございますな。やはり、異常気象でしたか」
くらりと目眩が襲った。
言葉の意味を理解しつつ、だが理解したくもない家主の思考回路に脳が示した拒否反応である。
「……異常気象っつったか?」
耳を疑うゼルの気持ちはわかった。
それはもう痛いほどにわかった。
だが家主は、はきはきと頷いて、丁寧にも反復してくれた。
「ええ、そうですとも。異常気象以外に説明がつきませんでしょう」
それとも何ですか、他に原因があったのですか、と問う家主に、三人は、ぐっと黙り込んだ。
「ったく……なんなわけ、あのヤロ、胸糞悪いわ」
「あんなヤツ、男の風上にも置けねぇ! あいつは女だ!」
「ちょおコラ! 一緒にしないでくれるっ?」
「ま、こーなるんじゃないかとは思ってたんだけどねー。あの男、ドケチだもん」
話題に上っているのは、この不可思議で厄介な一件を依頼した家主だ。
あの後、エナ達が騒いだせいで港町の一角は目を覚ました。
騒ぎで起きた町人達は窓から零れる陽の光に跳び起きて鎧戸を開けて空を見上げた。
町人があげる喜びの声は協奏曲のように周囲の民家へと伝染し、白やんだ空の下で一瞬にして活気付いた。
そこまでは良かった。
家から飛び出る町人の顔は夢に取り付かれていた先程までがまるで嘘のように晴れやかな笑顔で、エナ達もその笑顔にようやく安堵したところに、腹の虫が盛大な合唱をはじめた。
昨夜は無理矢理詰め込むだけだった食事を思い返し、匂い立つスープや鉄板の上で弾ける肉の油に口の中が切なげにきゅんとなり、彼らが屋敷の中に取って返そうと身を翻した時。
そこには家主が立ち、空を見上げていた。
うっすらと涙さえ浮かべたその顔には死の恐怖から解放された喜びで溢れていたのだが。
虹が空へと溶けていくのを見届けて彼らに視線を移した家主の顔は……夏の空をも突き抜けるようでいて、沼の底よりも暗い満面の笑みで彩られていた。
「やぁやぁ、これは良い天気でございますな。やはり、異常気象でしたか」
くらりと目眩が襲った。
言葉の意味を理解しつつ、だが理解したくもない家主の思考回路に脳が示した拒否反応である。
「……異常気象っつったか?」
耳を疑うゼルの気持ちはわかった。
それはもう痛いほどにわかった。
だが家主は、はきはきと頷いて、丁寧にも反復してくれた。
「ええ、そうですとも。異常気象以外に説明がつきませんでしょう」
それとも何ですか、他に原因があったのですか、と問う家主に、三人は、ぐっと黙り込んだ。

