エナが意味を成さない雄叫びをあげた。
力強く握られた槍が動く。
あと一秒遅ければ、獣の刃が華奢な体を貫いたことだろう。
自ら飲み込まれることを選んだかのように口内に飛び込んだエナを、最後の発砲で牙から救うジスト。
銃声が鳴り響き、同時に獣の歯が欠けた。
禍々しい光沢を放つその牙の破片が散らばった時。
彗星のような光と残像がその空間に刻み付けられた。
溢れかえる音。
エナの声、ジストの銃声、獣の嘶(イナナ)き。
その中で。
この程度……。そんな呟きが強く響いた。
「この程度、斬れねェよーじゃいけねンだよっ!!」
溢れかえる音。
ゼルの渾身の叫び、高い金属音、砕ける骨の音、そして……――獣の断末魔。
ごとり、と鈍い音と振動が床を鳴らした。
生命の黒い水が天井高く飛び散り、辺りを闇へと染めていく。
闇へと染まるその中で。
決して闇に染まらぬ命が四つ。
「ラフ……ありがと」
腰の高さ位にあるラフの頭を撫でると、ラフは擦り寄り、くぅんと鼻を鳴らした。
まるで、犬のように。
床に落ちた獣の頭も、仁王立ちのままの体も徐々に闇に溶けていく。
黒い蒸気が立ち上り、それはやがて何も無かったかのように霧散していく。
本来、あるべき姿へと立ち戻る。
ぼやけていく視界の中で彼らは見た。
黒い羽が一枚、風に舞うことも無くひらりと静かに床に落ちたのを。
それが、この空間の中においての彼らの最後の記憶となった。
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力強く握られた槍が動く。
あと一秒遅ければ、獣の刃が華奢な体を貫いたことだろう。
自ら飲み込まれることを選んだかのように口内に飛び込んだエナを、最後の発砲で牙から救うジスト。
銃声が鳴り響き、同時に獣の歯が欠けた。
禍々しい光沢を放つその牙の破片が散らばった時。
彗星のような光と残像がその空間に刻み付けられた。
溢れかえる音。
エナの声、ジストの銃声、獣の嘶(イナナ)き。
その中で。
この程度……。そんな呟きが強く響いた。
「この程度、斬れねェよーじゃいけねンだよっ!!」
溢れかえる音。
ゼルの渾身の叫び、高い金属音、砕ける骨の音、そして……――獣の断末魔。
ごとり、と鈍い音と振動が床を鳴らした。
生命の黒い水が天井高く飛び散り、辺りを闇へと染めていく。
闇へと染まるその中で。
決して闇に染まらぬ命が四つ。
「ラフ……ありがと」
腰の高さ位にあるラフの頭を撫でると、ラフは擦り寄り、くぅんと鼻を鳴らした。
まるで、犬のように。
床に落ちた獣の頭も、仁王立ちのままの体も徐々に闇に溶けていく。
黒い蒸気が立ち上り、それはやがて何も無かったかのように霧散していく。
本来、あるべき姿へと立ち戻る。
ぼやけていく視界の中で彼らは見た。
黒い羽が一枚、風に舞うことも無くひらりと静かに床に落ちたのを。
それが、この空間の中においての彼らの最後の記憶となった。
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