「させるかっ!」
エナとゼルの声が重なる。
ゼルは再度切りかかった。
やはり貫通しない剣の音を聞きながら、エナは槍を口の中に突き立てようと両の手でしっかりと構える。
だが次の瞬間、鎖骨の辺りに圧迫を感じた。
体が傾ぐ。
「こらこら」
頭上からのんびりとした声が降ったかと思えば、片耳を手で、もう片方の耳をジストの頬によって塞がれる。
そして、塞がれても尚、脳に響く立て続けの銃声。
この音を直に聞いて、よく鼓膜が破れないもんだなと感心していると、ジストはおもむろに頬を離して腕を伸ばした。
「命曝す前に、ジストさんを呼びなさい」
片腕でエナの体を押さえ、発砲したジストは銃越しにエナの鎖を掴んで引いた。
ずぶり、と肉が裂ける音がして刃が姿を現す。
引き抜かれる痛みに、獣は天井を仰ぎながら半歩後退した。
「エナちゃんの護り人なんだから。仕事させて?」
ね? とにっこり笑って髪に口付けたジストを邪険に振り払う。
「勿論」
鎖を元に戻しながら、エナは頷いた。
「援護、期待してる」
再び腰を低く落としたエナの背中で小さな溜め息が聞こえた。
「援護、ね…。辛い役回りだこと」
呆れたような、諦めたような、そんな声音だった。
だが、その言葉をエナが聞き取ることはなかった。
なぜならば。
新たな咆哮が其処には存在したから。

