雨の闖入者 The Best BondS-2


「させるかっ!」

エナとゼルの声が重なる。

ゼルは再度切りかかった。

やはり貫通しない剣の音を聞きながら、エナは槍を口の中に突き立てようと両の手でしっかりと構える。

だが次の瞬間、鎖骨の辺りに圧迫を感じた。


体が傾ぐ。


「こらこら」


頭上からのんびりとした声が降ったかと思えば、片耳を手で、もう片方の耳をジストの頬によって塞がれる。

そして、塞がれても尚、脳に響く立て続けの銃声。

この音を直に聞いて、よく鼓膜が破れないもんだなと感心していると、ジストはおもむろに頬を離して腕を伸ばした。


「命曝す前に、ジストさんを呼びなさい」


片腕でエナの体を押さえ、発砲したジストは銃越しにエナの鎖を掴んで引いた。

ずぶり、と肉が裂ける音がして刃が姿を現す。

引き抜かれる痛みに、獣は天井を仰ぎながら半歩後退した。


「エナちゃんの護り人なんだから。仕事させて?」


ね? とにっこり笑って髪に口付けたジストを邪険に振り払う。


「勿論」


鎖を元に戻しながら、エナは頷いた。


「援護、期待してる」


再び腰を低く落としたエナの背中で小さな溜め息が聞こえた。


「援護、ね…。辛い役回りだこと」


呆れたような、諦めたような、そんな声音だった。

だが、その言葉をエナが聞き取ることはなかった。


なぜならば。


新たな咆哮が其処には存在したから。