雨の闖入者 The Best BondS-2

「?!」


槍が伸びた。と彼らが思ったのは、ほんの一瞬。


咆哮に振り返った先には、口の奥深くに鎖を繋がれた獣の姿。

その鎖は、エナの持つ武器へと続く。


「……ブリューナク……なるほどねぇ」


面白そうにジストがくつくつと喉を鳴らした。


『投げると稲妻となって敵を死に至らしめる灼熱の槍』などと言われてきた本家ブリューナクは、実は生きていて意思を持っており、自動的に敵に向かって飛んでいったとも言われている。

まるでその伝説の再来を見ているかのように、不自然な程短かった三叉の中央が鎖を引き連れて飛んで行き、獣の喉を貫いたのだ。


だが、獣の走行は止められない。


人間相手ならまだしも、この生物離れした獣の命を奪うような殺傷力は、その武器には無かった。


「エナちゃん?!」


獣目掛けて走りこむエナの背に驚いたような声が届いたが、エナの足はもう止まらない。

槍を振り下ろす。

鎖が、ぐん、と縮む。

エナが獣の左横へと滑り込んだ時、獣を護る鉱物の塊が肩を掠めた。


氷水に浸した時と似た痛み。


それと共に鮮やかな紅が宙を舞った。


エナの体から零れた鮮血が床に落ちるまでのほんの数瞬。


その場に不自然な静寂が訪れた。


エナの鎖によって、獣の動きが止まる。


血が床に染みを作る、その刹那。






.