「実はコレ……」
そう言って、先端の部分を強く内側に押し込んだ。
その刹那、三節棍を繋ぐ鉄鎖が動き出す。
一瞬の内に鎖が縮み、三節棍だと思っていたものが一本の棒になったのだ。
そして、もう一方の先端が何かに押し出される。
合わさった『何か』が花開くような動きを見せたかと思うと、それはあっという間に闘牛の角のような形になった。
それが鋭利な刃であると気付いた時には、元の形を疑いたくなるほどに立派な槍になっていた。
「アレみたいだな、あのー猿とか河童の話のー……豚が持ってるヤツ!」
「トライデント……河叉…か?」
曖昧な感想を述べるゼルに対し、知識に富むジストが疑問詞を付けたのは、河叉に限らず、三叉の刃を持つ武器は真ん中が一番長く作られるのが通常であるからだ。
エナの持つ其れは、三叉戟の中でも河叉に近いが、真ん中の刃が明らかに短いし、そこだけは銛(モリ)のような形になっている。
「そ。ブリューナクっていうの。これで、戦えるでしょ?」
その名前を聞いた瞬間、ゼルもジストも絶句する。
「……そりゃーまた随分と……」
「大層な名前付けたもんだね」
ブリューナク。
五つの切っ先を持つ其れから放たれた光は一度に五人もの敵を倒したと言われた伝説の武器。
だが、放たれた光というのが、投石器もしくは投石器から発射される弾だったのではないかという説もあり、つまるところ真実を知る者は誰も居ない。
「唯一、ママが名付けてくれたの。文句あるっ?!」
エナは睨みつけた。
隙を逃さず猛スピードで飛び掛ってきた獣に対して。
彼らの間をすり抜け、ブリューナクと名付けられた槍を脇でしっかりと固定し、柄の部分を捻った。

