雨の闖入者 The Best BondS-2

「道! わかってんだろな?!」


「なんとなくね! ……仕方ないでしょ! 道なんか走ってたら追いつかれるんだから!」


走りながらも、不安そうなゼルの視線を感じ取ったエナは弁解するように反論した。


獣とまともに追いかけっこをしたところで結果は目に見えている。

道なき道を、方角だけを頼りに疾走するしかないのだ。


幸い、ゼルと二人で迷いながら訪れた際に作った通り道がなんとなく残っていたので、大きな障害もなく、走ることに専念出来た。


そこまで忠実に再現されている夢だからこそ、屋敷には自分たちの武器が置いてあると確信し、彼らはひた走る。


背後から木をへし折りながら走ってくる獣の唸り声が追ってくる。


大きな道から並走しようとしない獣の行動で、知能の程度が知れた。



「こっからが勝負っ!」


ユーノに入る為には森の獣道を出なければならない。


「エナちゃん!」


最後尾で声が上がる。


「なに?!」

「大丈夫? だっこしてってあげようか?」


この言葉にエナは少なからず脱力感を覚えた。


「あんたに命預ける気は無いっ!」


ちぇ、とわざとらしく舌打ちしたジストは、急にかわいこぶった声を作り出した。


「じゃあ、ゼルくんは? だっこ」

「てめェ! オレを餌にする気だろっ?!」


またしてもわざとらしい舌打ち。

ついでに「変なトコだけ頭まわりやがって…」と何やら不穏な台詞も聞こえてきた。


それなりに整備された道へと三人は身を躍らせる。



「仕方ねぇなあ」

「ジストっ?!」


声の距離が急に遠くなったことに、エナが振り返る。


ジストは道のど真ん中で立ち止まっていた。


「一番おいしそうなジストさんが囮になってやろう」


語尾に音符マークでも付きそうな弾んだ声。


「エナちゃん、大丈夫だよ。ジストさん、死んだりしないから」


ジストはひらひらと手を振った。