「エナちゃんっ! 女の子が顔に傷つけちゃ、めーでしょ!」
「傷つけたヤツに言ってよねっ!」
「っつーか、こいつ体まで……!」
ゼルは更に追ってきた獣を避け様に木の棒を叩きつけた。
腐った木の棒は『ぱきょ』と情けない音をたてて粉々に砕け散り、地に落ちた。
かすり傷以前の問題だ。
「体まで硬ェんだケドっ?!」
「やっぱり?!」
エナの頬を傷つけたのは獣の毛並み……だと思っていた黒い塊。
それも、恐ろしく硬い物質。
その現実にエナは、はしたなくも大きな舌打ちを披露した。
「こンままじゃ埒明かないっ! 逃げるよっ!」
言うが早いか、エナは一直線に深い森の中へと走り出す。
「おいコラっ! 逃げてどーすんだよっ?!」
既に姿を消したエナの声だけが返る。
「屋敷! あたし達の武器、あるはず!」
ああ、そうかと納得したゼルも後を追う。
「逃げきれりゃいいけどねー」
一人悠長な感想を述べて、ジストは振り返り様に獣の目をめがけて木の棒をまるで槍のように投げた。
視界が悪いのは獣とて同じ。
木の棒は大きな眼球を凹ませた。
大きな咆哮があがる。
地面に転がった木の棒を前足で粉々に砕き、もがき苦しむのを確認し、ジストも彼女達に続いたのだった。
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