雨の闖入者 The Best BondS-2

「……獣の咆哮(ホウコウ)だな」

「雨の原因が動物とはね……」


ゼルが一人で目を白黒させている。


「獣?! 原因?! っつか、そーとー図体デカいぞ?! こんなヤツ居なかったじゃ……」


ゼル! と強く呼ぶエナに混乱を宿した声は遮られた。


「やっこい説明はナシね。ここは夢の中。だから暴れていいの。わかった?!」


エナの作り出す略語に敏感なゼルは「ややこしい、だろ!」と口を挟みたかったのだろうが、流石にこの時は何も言わなかった。


「……ゼル? 何してんの?」


おもむろに小屋の中を物色し始めたゼルに訝しげな声が掛かる。


「素手っつーわけにはいかねェだろ」


そう言って、腐った木の棒とカビの生えたロープを投げて寄越した。


「……役に立つ? コレ」

「かすり傷くらいはつけれるかもよー?」


ジストの返答にエナは唸る。

咆哮の大きさからして、素手でも武器を所持してもたいして変わらない気がしないでもなかったが、確かに素手よりはマシに思えたのでそれらを拾い上げる。


地響きが聞こえる。


足音なんだろうなとエナは何処か冷静な頭でそれを受け入れた。


息つく間にも近付いてくるその地響きに、彼らは小屋の外へと身を躍らせた。


だが、何も見えない。


獣の姿もまるで無い。



「エナちゃん、殺さずの契約は?」


有効か無効かを問うジストにエナは再度唸った。


「……此処を出る方法が他に無いなら」



木が不自然な軋み方をした。

彼らがその音の方へと目を向けると雨が視界を遮る暗闇の中、何かが光る。