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目の前がチカチカと光り、空間がぐにゃりと歪んだ。
灰色の靄に包まれ、次の瞬間にもその靄は跡形もなく消え失せる。
「エナ!ジスト!」
聞こえてきた声にエナが辺りを見渡して、その声の存在を認めた。
「ゼル!!」
駆け寄り、頭のてっぺんから足の先まで視線を流す。
「こりゃまた……派手ね」
寝室で見た傷よりも全てが深い。
傷だらけで血を流して、見るからに痛そうな風貌であったが、
致命傷には至っていなかったし、
二本の足はしっかりと地を踏み締め、
その目は、しっかりと前を見据えていたからエナはひとまず安堵する。
「呼ぶまで来ねェたぁ、手ェ抜きすぎじゃね?」
「呼んでも応えない奴になんか言われたかないわ」
こんな軽口を叩けることに更に胸を撫で下ろす。
ゼルはその遣り取りに満足気な笑みを浮かべた後、周囲に視線を移した。
訝しげな顔をしている。
その心中を代弁したのは、もう一人の男。
「……此処は……?」
先程まで、ゼルの寝室に居たはずだった。
背後から聞こえたジストの声に、その答えを知るエナは微笑と共に振り向く。
「湖の辺(ホトリ)の小屋よ」
そう、灰色の靄が薄れた時に現れた景色は、あの男と夢の中で会った場所に酷似していた。
ただ違うのは、今にも消えそうな弱々しいランプが灯っているということくらいで。
「小屋?」
そんなものあったかと首を捻るゼルを見て、ジストが止血くらいしろと忠告する。
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