さあ思い出せと誰かが言う。
思い出すなと誰かが言う。
心の奥底で二つの声が鬩(セメ)ぎ合う。
さあ呼べと誰かが言う。
呼んではならぬと誰かが言う。
必死に、誰かが自分を呼んでいる。
応えろと叫んでいる。
その名を呼べば、誰かがきっと救ってくれる。
だが、その名がわからない。
思い出せない。
近くに居たはずの誰か。
手の届く距離に居たはずの誰か。
思い浮かぶのは、太陽よりもまだ燦然と輝く大輪の花。
向日葵。
そして、雄大で温かい珊瑚礁の海。
其れを護る、紅に染まる空。
――ゼル――
声が、届く。
強く、真っ直ぐに。
この、心に。
長年親しんできた名前で。
自分にとって、唯一にして本物の名で。
空気の振動のように、静かな水面に起こる波紋のように。
心の奥底にじんと響き渡る。
静かで、だがとても強い想い。
自分をゼルと呼ぶ、その人物。
ああ、そうかとゼルは思う。
呼ばれていたのかと心が言う。
応えを求める呼びかけに。
誰を呼んでいいのかもわからないままに口を開く。
思い出すなと誰かが言う。
心の奥底で二つの声が鬩(セメ)ぎ合う。
さあ呼べと誰かが言う。
呼んではならぬと誰かが言う。
必死に、誰かが自分を呼んでいる。
応えろと叫んでいる。
その名を呼べば、誰かがきっと救ってくれる。
だが、その名がわからない。
思い出せない。
近くに居たはずの誰か。
手の届く距離に居たはずの誰か。
思い浮かぶのは、太陽よりもまだ燦然と輝く大輪の花。
向日葵。
そして、雄大で温かい珊瑚礁の海。
其れを護る、紅に染まる空。
――ゼル――
声が、届く。
強く、真っ直ぐに。
この、心に。
長年親しんできた名前で。
自分にとって、唯一にして本物の名で。
空気の振動のように、静かな水面に起こる波紋のように。
心の奥底にじんと響き渡る。
静かで、だがとても強い想い。
自分をゼルと呼ぶ、その人物。
ああ、そうかとゼルは思う。
呼ばれていたのかと心が言う。
応えを求める呼びかけに。
誰を呼んでいいのかもわからないままに口を開く。

