雨の闖入者 The Best BondS-2

「うん、知ってる」


ゼルの性格を熟知した弟は短く答え、剣を一閃させる。

避けるにも余りにも近距離すぎて、ゼルの体にまた新たな傷が増える。


「……くっ……」


最初の一撃ほど深くない。

それでも血は滴り、足元の水溜りを大きく広げる。

このままでは命が消えるのも時間の問題だ。

自分に残された時間は決して多くない。

「他の道はねェのか……! ……ロウ……! やめろよ! やめてくれ!」


血を吐くような想いで問うてみる。

優しいロウウェルだから、考えを変えてくれるかもしれないという甘えもあった。

だが、その望みはあっさりと断ち切られる。


「それは、ゼル兄が決めることだよ」


悲しさが広がる。

虚しさが染みる。


「……そうかよっ!」


小さく怒鳴り、傷を負った身でも力強く一歩踏み出す。

剣を取り上げようと、ロウウェルの腕を取ろうとした瞬間。


「?!」


体重を移動させる際に、血の水溜りに足を取られた。

前のめりになって、両手をつく。

その拍子に顔に血が飛ぶ。

両手にも自らの血がべっとりと絡みついた。

鉄くさい臭いが鼻を突く。


「ゼル兄って、案外ドジなんだよね」


くすくすと笑う声と共に、首筋にひんやりとした切っ先があたる。


(……これで終わりかっ?!)


自分への叱咤か、発破か。

だが、諦めきれない「生」に縋る。


「これで、終わりなのかよっ?!」


声に出して自分を鼓舞する。

その時、心の琴線に何かが触れた。


「っ?」


琴線に触れた何かを探り出そうと心が逸る。

何かを忘れている。

大切な何かを忘れている。


「これが始まり、だよ」


ロウウェルの声も、命の危機も霞むほど、気になる「何か」。