雨の闖入者 The Best BondS-2

夢だからと思っていた。

覚悟したくせに心のどこかで夢だからと油断していた。

甘い覚悟だ。

ここに居るロウウェルが、本当にロウウェル自身の魂であるなら、好きにさせてやりたいと思った。

現実では助けることどころか、何一つ出来なかったから。

罪滅ぼしをしたと思いたかったのだ。

だがそれも全ては夢の中だと思っていたからだったと気付く。


この痛みは本物。

では、この刃は真実自分の命を奪うもので、ロウウェルは真実自分の命を狙っているということで。

夢の世界にある現実で。


生きるのか。

死ぬのか。


どちらかを選ばねばならないということ。

それは、ロウウェルに殺されるか、ロウウェルを殺すか、二択しかないということ。


どちらも選びたくない。

第三の道を探したいと切実に思う究極の選択だ。

足場も天井も勿論広さも解らない、灰色一色の空間の中、ゼルは辺りを見渡した。

逃げることを第三の選択として挙げたかったからだ。

だが、果てのわからないこの空間で逃げ切ることなど出来るだろうか。

思ったよりも小さな箱の中に居るのだとしたら、追い込まれてそれで終わりだ。

何よりも、弟に背中を向けるなど、そんな情けない真似が果たして自分に出来るであろうか。


「迷ってるんだ?」


囁きに近い笑い声。

嘲笑するようなものではなく「仕方がないよね」と呆れるような。


「いいよ、生きたいのなら僕を殺しても。ゼル兄の手で消滅出来るのなら、それも本望だし」

「出来るわけねェだろ!」


ロウウェルを殺すか殺さないかで迷ってなどいない。

どうやって現状を打破するか、それだけを考えている。

その現状の打破に、ロウウェルを殺すことも大人しく殺されてやることも含まれてはいない。