雨の闖入者 The Best BondS-2

ロウウェルは眉尻を少し下げて困ったような笑みを作った。

昔から変わらない、その笑顔で。


「六人だよ……もうすぐ一人増えるけど」


ロウウェルの手から離れた籠が小川にぶつかり音をたてた。

ゼルの視線の先で中身を散らばせて傾いた籠はそのまま何処かへと流れていく。

そう、何処かへと。

この川の先に何があるのかなど、ゼルは知らなかった。

知る筈がなかったのだ。


「ゼル兄……家族に戻ろうよ」


だってここは――夢の世界。

いつの間にかこの世界の住人だと思い込んでいた。

何度も転寝を繰り返す内に、まるで沼に足を取られた時のようにゆっくりとゆっくりと意識を侵食されていた。

実際に今でも現実のことが思い出せない。

わかることといえばロウウェルをはじめ、後の五人は死んでしまったという事実のみ。

死んでいった者達だけを家族と呼んだロウウェル。

これでは夢の世界というより、黄泉の世界だ。


「ロウ……お前……」


視線を戻すとロウウェルは笑っていた。

いつのまにか現れた剣を手にして。


「どうして思い出しちゃうの? このまま永遠の夢を一緒に見ていたかったのに」


ぞくり、と背筋が震えた。

弟だったはずのロウウェルが他人に見えた。


「気付いたなら……僕はゼル兄を殺さなきゃならない」


顔は苦笑の形をとっていたが、そこから放たれるのは本気の殺気。

見たことも無い、剣士としてのロウウェルの姿だった。


「お前、どうして剣なんて……」


弟に剣を向けられる。

そんなことなど考えたこともなかった。

ゼルの狼狽をよそに、ロウウェルは笑顔のまま淡々と言葉を紡ぐ。


「仕方ないでしょ、僕はそういう条件でゼル兄の記憶から選び出されて夢と繋げられたんだから」


そういう条件というのは、夢だと思い出した時点で剣を向けることだというのか。

そんな馬鹿げた話。


「信じられっかってんだ」


吐き捨てる言葉にロウウェルは首を傾げた。